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夏場の高温下での屋外作業や熱気のこもる屋内作業では、熱中症リスクが常に潜んでいます。近年の猛暑化を受け、従来「努力義務」とされてきた熱中症対策が、令和7年(2025年)6月1日から改正労働安全衛生規則で「事業者の義務」として明文化されました。本稿では、最新の法令改正点を踏まえつつ、企業が担うべき具体的責任と対策のポイントを整理します。

職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)
職場における熱中症予防対策について【健康課】 「神奈川労働局」

厚生労働省職場における熱中症対策強化について001476821.pdf

‑ 改正労働安全衛生規則の概要(体制整備・手順作成・周知義務 化など)が記載されています。


1. 背景とリスクの増大:猛暑化による熱中症リスクと労災認定

  • 気候変動による猛暑化
    日本全国で40℃前後の猛暑日が増加。建設業や製造業、運送業など、熱中症予防が喫緊の課題に。
  • 熱中症による労災認定の増加傾向
    毎年数千件規模で発生する熱中症関連労災。労働基準監督署からの行政指導が厳格化。
  • 企業リスクの二重構造
    労働者の健康被害による損害賠償リスクと、法令違反(改正労働安全衛生規則)による過料・罰則リスクを同時に抱える。

2. 令和7年(2025年)改正の主なポイント:労働安全衛生規則と義務化

  1. 熱中症対策の義務化(労働安全衛生規則 第62条の20)
    • 従来の「努力義務」から「事業者の義務」に強化。
    • 違反時には30万円以下の過料が科される可能性。
  2. WBGT計測の定量評価義務化
    • 暑さ指数(WBGT)を用いた環境測定の定期的実施と記録保存を義務付け。
    • WBGT値に応じた休憩基準・作業中止基準を事前に設定し、全従業員に周知。
  3. リスクアセスメントの強化
    • 高温環境下の作業について「危険性の抽出」「リスク評価」「対策実施」を文書化。
  4. 就業者教育・巡視体制の整備
    • 定期的な熱中症予防研修や応急手当研修の実施と記録。
    • 現場巡視によるWBGT値・体調確認フローの明文化。

3. 企業が担うべき対応フロー:熱中症対策マニュアルの作成と運用

フェーズ取組内容ポイント例
① 現状把握WBGT計測・ヒートマップ作成リスク“見える化”
② 文書化・計画策定行動基準・休憩基準のマニュアル化社内規定への組込み
③ 環境改善休憩所設置、冷風機導入、遮熱シート活用即効性と低コストの併用
④ 教育・周知熱中症症状・応急措置研修、連絡体制整備定期的なフォローアップ
⑤ モニタリング巡視記録、WBGT・体調記録保存コンプライアンス確認

4. 未対策時の罰則・損害賠償リスク:法令違反による企業責任

  • 過料科の可能性
    労働安全衛生法第120条の3に基づき、30万円以下の過料。
  • 行政指導・立入検査
    労働基準監督署による是正勧告や改善命令。
  • 損害賠償請求リスク
    安全配慮義務違反を理由とした民事賠償請求や、取引先からの信用失墜。
  • ブランドイメージの低下
    メディア報道による企業風評被害。

5. 実務上の留意点:WBGT計測器の校正から協力会社対応まで

  • 測定器の校正・管理
    校正証明書の保管と手順マニュアル整備で、正確なWBGT計測を担保。
  • 記録保存と保管
    WBGT・巡視・教育の記録と保存
  • 小規模現場の対応
    携帯型WBGT計測器の導入検討。
  • 協力会社・派遣スタッフ連携
    下請け含む全社一体で「熱中症対策ガイドライン」を作成し、役割分担を明確化。

6. 事故発生時のリスクと想定される対応

  • リスク概要
    重度の熱中症事故が発生した場合、労災給付後にも、事案によっては損害賠償請求があり得ます。
  • 想定される対応フロー
    1. 労働基準監督署の立入調査・是正勧告
    2. 社内調査報告書の作成と再発防止策立案
    3. 労災給付後の社内外への説明・コミュニケーション
    4. 民事交渉・損害賠償責任への対応と対策の検討

7. 保険スキームによるリスクヘッジ:使用者賠償と労災上乗せ補償

万が一、大きな事故による負傷や死亡事故に至った場合に備え、以下のような保険を組み合わせることで、訴訟の際の企業負担や、負傷者本人の金銭的負担を軽減できます。

  • 使用者賠償責任保険
    労災事故の際の使用者への慰謝料などの賠償リスクをカバー。
  • 労災上乗せ補償(政府労災)
    労災保険給付以外の補償の充実の強化

8. まとめ

  • 法令遵守の徹底:令和7年改正で熱中症対策が義務化されたため、WBGT計測や休憩基準などの実施・記録を確実に行うこと。
  • 多層的な対策:リスクアセスメントによる事前対策、設備・環境面の改善、教育・巡視体制の整備を組み合わせ、常に見直しを行う。
  • リスクヘッジの準備:万が一の際に備え、使用者賠償責任保険や労災上乗せ補償を検討し、企業の経済的負担を軽減。
  • 継続的改善:現場の声をフィードバックし、ガイドラインやマニュアルを最新版にアップデート。

※免責事項
本記事は執筆時点の一般的な情報提供を目的としており、保険商品の勧誘を目的とするものではありません。具体的な状況や制度変更により内容が異なる場合があります。万が一誤りや不備があった場合でも、当社(川崎保険センター)は一切の責任を負いかねますので、最終的な判断や詳細は必ず各行政機関および専門家へご確認ください。

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